先日、セリフのある普通のお芝居を観に行きまして、面白いことに気がつきました。
この劇団は、有名な演技システム・メソッド（内面重視の演技・俳優術）を
本場ロシアの演出家から本格的に学び続けているとのこと。
出演者数は15名くらいだったでしょうか？
どの人の演技も、全くこちらに届いてこないんです。
そんな中、ひとりだけ「おっ！と思わせてくれる人がいまして、
役柄のせいかな？とも思ったのですが、あらためて他の人たちの演技と比べながら観ていまして、
やはり、その人だけ違う。
何が違ったのか？
その人だけセリフがこちらに届くんです。
他の人たちはセリフが届いてこないんです。
声の大きさ？って思われるかもしれませんけど、そうではないんです。
声の大きさではないんです。
大きければ届くということではないんです。
届くといいますのは、心に届くということで、
大きな声は耳には届くだけ。
ですから、その人以外の人では、感極まった感じでの大きな声ですら、
ただ大きいだけで届かないんですね。
みなさん役柄に入り込んで、それぞれ気持ちのこもった声を出しているのだとは思うんですけど・・・
正直、これはよくあることなんですけど、
長いこと本格的に俳優術を学び続けている劇団であったために、驚きが強かったわけです。
これで良しとしているのであれば、考え方の違いなんでしょうけど、
私の言葉でいいますと、みなさん、舞台に立ていないんです。
これは以前の記事でお話しました「AさんとA'（ダッシュ）さん」の、
まさに、AさんとA'（ダッシュ）さんを一体化させよう、としてしまっていることによる弊害
だと思ったんです。
自分の中に閉じてしまうんですね。
感情を込めれば込めるほど、閉じてしまう。
本来であれば、観客から見て、その感情（セリフの間や、抑揚なども含めて）は
その役柄として
”もっともなこと”
だと思えるような演技
でなければいけないと思うのですが、
どんどん乖離していってしまうんです。
特にこの日の主役級の女性は、役柄的にも醜い感情を爆発させるような演技があったのですが、
そうなりますと、ただただ醜い演技になってしまう。。。
「醜い感情を吐き出す演技」と、
「醜く感情を吐き出す演技」とでは、
天と地ほどの開きがあります。
「醜い感情を吐き出す演技」には、美しさがあるはずですが、
「醜く感情を吐き出す演技」では役者自身が醜いように思えてしまう。。。
こういった演技では、普段のその人が出てしまっているんです。
役と一体化しよう、役の内面から演技しようとしているにもかかわらず、
日常の自分が出てしまう。。。
ですから、観ていて、役柄の感情であるのか、その人の日常の延長の感情であるのかが、
分からなくなってしまうんですね。（役柄の感情とは思えないわけですが・・・）
非日常の場であるはずの舞台上で、日常がちょこちょこと顔を出してくる。
そんな感じで、楽しみようがないわけです。
さて、唯一、セリフが届く役者さんは、AさんとA'（ダッシュ）さんがきちんと分かれている。
そう思いました。
安心して観ていられる。楽しめるんです。
セリフが、その役の人物の内面から出てくる言葉として、こちらに届くんです。
セリフの抑揚や間といったものも、無理がない。
このAさんとA'（ダッシュ）さんの問題の重要さは、マイムではいつもお話している通り。
自分の中から感情を絞り出して、一方的な表現になってしまわないように。
閉じた演技で、世界を小さくしてしまわないように。
観客を巻き込むように。
AさんとA'（ダッシュ）さんを一体化させようとしますと、
観客は舞台上で起きていることとは切り離されてしまい、外から眺めるという感じになります。
巻き込まれることはない。
ただ、セリフがありますと、多くの観客はセリフの内容、言葉に意識を持っていかれますから、
セリフの無い演技、マイムに比べて、演者の「閉じている感」は分かりづらいかもしれません。
この日は、マイムという身体だけでの表現で大事なことが、
セリフのある芝居でも、大事なのだとあらためて認識することになりました。
参考記事『AさんとA'（ダッシュ）さん』
5月28日 『声（音）を体に響かせる〜身体感覚を磨く 第5回』
キャンセル待ちでの受付となります
6月14日 『声（音）を体に響かせる〜身体感覚を磨く 第6回』
7月開講 『アートマイム塾〜シアターカイ本物の俳優修業シリーズ〜』
Body,Mind&Spirit 本当の自分の身体は天才だ！
