前々回、山下達郎の声の魅力の秘密についてお話しました。
そのきっかけとなったのが、
あの名曲「クリスマスイブ」でした。
カバーする人は、プロアマ問わず多いですよね。
その多くは
“甘い” 感じの歌い方
という印象があります。
例えば、歌の上手さで有名なクリス・ハート
こちらは、女性。
どちらもとても素敵です。
美しい。
では、本家、山下達郎
いかがですか?
“甘さ” はないですよね?
声の質だけの問題ではないんです。
前回の記事で触れましたけれど、
角松敏生に見出されてメジャーデビューしている
シンガーソングライターで、
ボーカルレッスンもされている方から、
山下達郎は
歌い回しを譜面にすると、
すっごい微妙な休符が多数で…
というコメントをいただいたんです。
ですから、その後、歌っているときには、何となく
「微妙な休符」がずっと意識に残っていたんですね。
そうしましたら、今朝、
あっ!
と思ったんです。
この「多数の微妙な休符(休符には聞こえない休符)」から、
キラキラした光が漏れてきたんです。
実際に見えたわけではなく、そんな感じがしたんですね。
あぁ、これは
冬空の下のイルミネーションだ!
休符無く歌いますと、
きらめきが生まれません。
もう一度、先ほどの歌を聴き比べてみると
分かると思うのですが、
山下達郎が歌うと、
都会の冬の夜、きらめくイルミネーションという
景色が思い起こされる感じがしませんか?
それに対して、カバーのほうは、
景色は現れません。
心情に寄り添っている感じです。
休符なく優しく歌うため
甘い感じになっているんですね。
一方、本家は、
微妙な休符がたくさんあることで、
光がちらちらと瞬く、華やかさがあります。
けれど、歌詞は寂しさをたずさえています。
つまり・・・
景色として、目の前に広がる
華やかなイルミネーションの瞬きと
待っても君が来ることがない、ひとりきりという
寂しさの
対比、ギャップが
なんとも、切ない気持ちにさせるわけです。
もちろん、これは能の謡に通ずる声だから
活きてくるのだと思います。
華やかさと寂しさを
同時に含んだ発声ですからね。
表現というのは、
一見シンプルでいながら、
複雑であるほうが、
豊かになります。
山下達郎の歌う「クリスマスイブ」
心情に寄り添うのではなく、
歌詞とは対照的な景色を見せることで、
聴く人の感情を揺らしている。
名曲の名曲たる所以ですね。
クリスマスは終わってしまいましたけど
また、聴いてみて下さい。