お腹から声を出す。腹式呼吸で発声する。
歌や芝居、あるいは会議なども?非日常的な場面では、大事なことかと思います。
先日の「声から身体をつくる」クラスで、参加者のひとりが
「お腹から声を出すって、お腹から出すのではなくて、お腹を使うってことだったんですね!」
と、自分で気づかれたんです。
私がそういった説明をしたわけではなく、声帯と空気圧(声門下圧)の扱い方をメインにレッスンしていた結果、そのことを体感したんですね。
その人は、もともと大きなしっかりした声が出る人なんですけど、それでも新たな発見として、お腹と声の関係に気づいたわけです。
素晴らしい!
で、前回、前々回とお話をしています西洋の発声と和の発声のベースとなる音の違いですけれど、「ん」という音をしっかり響かせるのは難しいので、この一連のお話にピンと来ない方は多いと思います。
「ん」は引き込む、飲み込むような音。けれど、それを外に向かってしっかり出す。ちょっとアクロバティックな感じです。だから、簡単ではない。
ただ、この引き込みつつ外に出すという、一見矛盾したことを成立させられることが、大きな可能性をもたらしてくれる!と思うんです。
(実際、ある程度であれば、そこまで難しくありません。)
発声で響きを作れるのは母音でして、日本語はその母音を口の前で作ってしまうところを、「ん」発声をすることで口の奥・喉の奥で母音を出せるようになってくるんです。
そうしますと、子音と母音を分けて発声出来るようになります。
その上、喉が開くようになるので、喉を締め付けてしまわなくなるんです。
もちろん、
お腹はすごく使われます。腹式呼吸など意識しなくてもいいんです。
実はある人に、「ん」発声を応用して歌ってもらったんですけど、普段であれば声が裏返ってしまうところがスムーズに歌えたり、音の通りが無理なくしっかりしたりすると、驚いてもらっていまして、効果を実感しいるところなんです。
ところで、日本語が口の前での発声であるがために、お腹を使わないで済んでしまい、声が高くなりアニメっぽい声になってしまうというお話をしましたけれど、「ん」発声を外にしっかり響かせられない状態にもかかわらず、「ん」発声が強まってしまっている発声もあり得るのだと思われます。
つまり、お腹を使えていない状態で、「ん」が鳴る顔の中のある部位の働きの強さだけで声を発しますと、甲高いアニメっぽい声になるんです。
この声、通ることは通るんです。いや、通り過ぎるくらいです。
ただ、攻撃的な音、ぶつかる音なんです。サイレン的と言えば分かりやすいかと。
黒柳徹子さん。この方の声、特徴的ですよね?
一見、ここでのお話のあまり良くない発声のような感じに見えるかもしれません。
けれど、そこまで攻撃的な感じはしないと思いませんか?
これは、やはりお腹が使えているからだと思われます。
そう、しっかりお腹を使ってきているんです。
ですから、声にどこか柔らかさ、丸みがあるんですね。
さて、「ん」発声によって、子音と母音を分けて発声出来るようになりますと、(出来たらもうひとつ、声門下圧の扱い方がそれなりにでも分かりますと)英語など、子音をしっかり発音しなければならない言語の習得も、非常に有利になるのではないかと思われます。
日本人が英語っぽく喋ろうとしますと、巻き舌になりますでしょ?
なぜ、そうしたくなるのか?
もちろん、巻き舌っぽく聞こえるからですけれど、なぜそう聞こえてしまうのか?
これも、「ん」という子音の発声で使う部位が、他のあらゆる子音にも流用・応用されているのだと考えますと、見えてきます。
子音と母音の使い分けで、口の中での発声場所が前後に移動することがはっきりと分かるからです。
そもそも英語は母音を口の前ではなく、奥で発声しているので、日本人からしますと舌が奥にあるように思えて巻き舌っぽく感じるということもありますけれど、それよりも大きな要因があるんです。
それは、基本的に英語などは子音+母音ですから、口の中での発声場所が前から後ろへと移動するんです。
そうしますと、舌が前から後ろに移動する、巻き舌っぽく聞こえてしまうわけです。
日本語はずっと前のままで、後ろに動くということがない。日本語にはない音になってしまうがために、巻き舌として受け止めざるを得なくなるのでしょうね。
例えば、「first」と「fast」の発音の違いって、難しいですよね。
けれど、「first」は母音が曖昧。「fast」は母音がはっきりしている。
明らかに違うわけですけど、口前発声では違いを明確に出すことが難しい。
けれど、子音発声で使う場所と母音発声で使う場所を明確に分けられていれば、全く違う音として発音できるわけです。
そこに、「ん」発声の感覚が有用ということなんです。
と、長くなりましたけれど、「ん」を響かせられるような発声が、お腹から声を出すことをことを容易にしてくれるだけではない、さまざまな効用があると考えられます。
いずれにしましても、「ん」発声の体感が必要なお話なので、今後少しずつでも検証的なことが出来ればと思っています。
もちろん、これを読んで試してみて下さる方がいらっしゃれば嬉しいです。
(「ん」を喉で出してしまわないよう、くれぐれもご注意を。)