オーガニックマイムJIDAI の「身体」「表現」考

オーガニックな身体の使い方、表現についてのいろいろ。時々、甘いもの。

エモーショナル・メモリー/フィジカル・メモリー

スタニスラフスキー・システムという、その世界では有名な演技術・俳優術があります。
外面的で誇張された演技ではなく、内面から湧き出る真実を見せることを目指したものです。



と、偉そうに言いましたけれど、私自身ここ数年で少しだけ知るようになったばかりで、
レッスン受講経験もないのに、勝手に近しいものを感じているといった状態です。



その一方で、本格的にその演技術を学んでいる劇団の公演には、
違和感を覚えたりもして、まぁ、とにかく気になる演技術なわけです。




そんなとき、たまたま手にした本に、非常に興味深いことが書かれていたんです。




本は、『英国の演技術』(現代演劇協会 監修・三輪えり花 著/玉川大学出版部 刊)でして、
第1章がBODY(身体)ということで、アレクサンダー・テクニークの話から始まるという、これまた興味深い感じですよね。



そんな中、「演技実践」という項で、こんなことが書かれているんです。


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「泣かなくてはいけない場面では,自分が悲しくて泣いた時のことを思い出してみよう」

と推奨し、この演技術をエモーショナル・メモリーと呼びました。

しかしすぐに、このやり方は、稽古場では役に立つけれど、
実際の舞台で自分とは別の登場人物を演じているのに、
俳優本人のおばあちゃんが死んだ時のことを思い出すのは、
甚だ間違っていることに気がつきます。


(原文のまま)

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これ、面白いですね。



マンガ『ガラスの仮面』にも、
このエモーショナル・メモリーによる演技術を推奨する場面がありました。



主人公の北島マヤが、かつて名女優といわれた人から、
枯れたバラ(握りつぶしたバラだったかな?)を手渡され、
美しいバラを見ているような演技をさせられるのですけど、最初は上手くいきません。
なにせ、目に映ってるのは、枯れてしまった美しくないバラなんですから。

そこで、その元名女優が、美しいバラを見たときのことを思い出すように促すんですね。


マヤは目を閉じて、一旦そのときのことを思い浮かべることで、上手に演技ができる。


そんなエピソード。





つまり、
「嘘」を隠すために、エモーショナル・メモリーを使うといいですよ、
という話なのですが、



スタニスラフスキーは、そのやり方の欠点に気がついたんですね。




一度は推奨したけれど、無理があるぞと。





ただ、この気づきまでにどれくらいの期間があったのかは、
この本には書かれていませんでしたので、分からないのですが、
どうも、気づきの前に教えを受けていた人たちが、相当数いるようなんですね。



スタニスラフスキーからの直接の教えでなくても、
このエモーショナル・メモリーという演技術を持ち帰って広めた人たちもいますからね。





エモーショナル・メモリーは、一見なるほど!それはいいやり方だって、
思いやすいですよね。

私も、『ガラスの仮面』を読んだ時は、
まだ人前でマイムをするような人間ではなかったですから、そういうものなんだと、
疑問なんて全く持ちませんでしたからね。





さて、では間違いに気がついたスタニスラフスキーはどうしたか?


ここからが、今回のお話の核心です!



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そこで彼が採用したのはフィジカル・メモリーという方法です。

これは、身体的な動作が、それに付随した記憶を刺激することに着目した方法です。

泣く場面には、自分が泣いた時の肉体になる(呼吸を浅く早くしたり、うなだれる等)、
すると驚くべきことに必然的に泣きたくなる、というわけです。



(原文のまま)

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いやいや、驚きましたよ!


これって、私の推奨している「エモーショナル・ボディワーク」に近いじゃないですか!





なんだ、ちゃんとスタニスラフスキーも分かっていたんだ。


と、偉そうに思ったわけです(笑)





にもかかわらず、私の知る範囲では、


このフィジカル・メモリーを使えていないように感じるんです。





その後の指導者たちが、
スタニスラフスキーからエモーショナル・メモリー教わったのか、フ
ィジカル・メモリーを教わったのかによっても違ってくるでしょうから、
何ともいえないのですが、仮に、フィジカル・メモリーを採用していたとして、

なぜ身体が使えなくなるのか?

なぜ感情にリアリティが現れないのか?





思うんです。

フィジカル・メモリーは、下手をするとジェスチャーになってしまいます。


それでは、内面重視の正反対に行ってしまいますし、
いわゆるパントマイムになってしまいます。




スタニスラフスキーは最終的にフィジカル・メモリーを推奨した以上、
本人はその本質を掴んでいるはずです。



けれど、
教えを受けた人たちが掴みきれていなかったか、
あるいは、適切な指導方法が見つけられていないか・・・




正直、フィジカル・メモリーは言うほど簡単ではありません。




「泣く場面には、自分が泣いた時の肉体になる」って、言われて、
ジェスチャーではなく出来ますか?
ということ。




私は「エモーショナル・ボディワーク」を長年実践し、指導していますけれど、
ここ1、2年でようやく効果的な指導法が分かってきた感じです。



もちろん、以前から体感を導いたりはしていたのですけど、
受け手が自分で発展応用させることが、難しかったのだと、
今になるとそう思います。




「エモーショナル・ボディワーク」の効果的な指導法が見つかった背景には、
「顔呼吸」があるんですね。

これも私のオリジナルワークですけれど、
顔とはいいつつ、メインは頭蓋骨を使うものでして、
この方法を組み込むことで、飛躍的にレッスン受け手の理解度・体感度が高まりました。




そのことを鑑みますと、

おそらくフィジカル・メモリーというのは、かなり大雑把なもので、

細かなニュアンスを作ることができず、また、そのフィジカルからくるものが、

本当に自分の感情に結びつくという感覚を得られづらいものとして、

受け取られているのではないかと推測されます。




「エモーショナル・ボディワーク」も、
全くの初心者、それも自分の体に対する感覚の薄い人には容易ではなかったりします。




実際に、スタニスラフスキー本人が
どのようにフィジカル・メモリーを使いこなせたのかは分かりませんので、
なんとも言えませんけど、

方法論は方法論として、

誰にどのように教えを受けるかは、

極めて重要だと思いました。






指導者は本当にその方法論で、
自分自身が出来ているのかどうかに目を向ける必要があるでしょうし、
その上で、
どれだけ的確に体感を導き出す方法を持つようにしているかが重要ではないでしょうか?





そして教わる側は、演技術に限らず、ボディワークでも何でも、
どんなメソッドを習っているかではなく、
何を学べているかに真剣に目を向けませんと、

「◯◯を学んでいる」という形をなぞっているだけの、
あるいは、
「◯◯のスタイル」に拘束されていることに気がつかないでの、

変な安心感に浸ってしまうだけになってしまいます。





最後に。


スタニスラフスキーのいうフィジカル・メモリー
私のいうエモーショナル・ボディワークで、
自分の感情に変化を起こせるようになっても、拒否する人がいます。



それは、自分の頑張り感を大事にする人です。
実際に起きていることではなく、手応えに目を向けてしまう人です。
あるいは、物事を勝手に難しくしてしまう人です。



舞台の上で、何をしたいのか?どうありたいのか?



※「フィジカル・メモリー」と「エモーショナル・ボディワーク」は、違うと思われます。
”メモリー”という考え方を採用するかどうか?
エモーショナル・ボディワーク」では、自分では経験の無い感情も身体的に生み出し、
新しい感情として経験できますから、いわゆる”メモリー”とは関係ありません。




 1月14日 『「立つ」「歩く」の悩みから解放されるためのレッスン

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