「表情豊かで素晴らしい表現力」といった言い方、ごく普通に聞きますよね?
で、ちょっと気になって調べてみたんですけど、
英語では「表情豊か」は「expressive」、つまり「表現力豊か」であって、特に顔の表情に焦点を当てているわけではなく、ですから、あえて「face(顔)」を付けたりするようなんです。
やはり、そうかと思ったんですけど、面白いですね。
日本語では表情といえば、基本、顔のことですけど、英語ではあえて顔だと言う必要が出てくる。
それだけ、日本人は顔、表情が動かないということですね。
それで、表情が色々と大きく変化すると「表情豊かで素晴らしい表現力」になる。
ところで、表情豊かと表現力は、私にはイコールではなく、それはそれという感じなんです。
表情豊かであるのと「顔芸」を、どう考えるのか?なんですね。
で、やはり気になって調べましたら、
英語では顔芸という言葉は、基本無いんですね。
「make funny faces」と「変な顔をする」という言い方か、無理矢理「facial tricks」となんだかマジックっぽいですけど、これは顔芸ではなく美容系のお話になってしまうようですね。
つまり、やはり顔芸に当たる認識の仕方がない。
ところで、ジェスチャーと顔芸が上手ですと、上手なパントマイムという印象になるかと思うんですけれど、どうですか?
私たちのアートマイムでは、これを良しとしないのですけど、かといって表情が無くても困ります。
アートマイムの祖であるポーランドのステファン氏のところに、日本人女性がいるんですけど、5,6年かもっと前か?彼女がカンパニーのメンバーたちと演じている姿を見て、ひとつアドバイスしたことがあるんです。(彼女は日本にいる頃、私の生徒で、アドバイスの求めもあって。)
どんなアドバイスか?と言いますと、
「表情をわざとであっても、大きくしたほうがいいんじゃいない?」と。
目鼻立ちのくっきり大きなポーランド人の中にいますと、どうしても表情の変化が乏しく見えてしまうんです。
それで、良いこととは言えないけれど、少し大袈裟に表情を作るほうが溶け込めると思ったんです。
ところが、この2,3年、彼女がポーランドからオンラインで私のクラスを頻繁に受けるようになり、身体が変わってきましたら、表情が自然と大きくなってきたようなんです!
これは、ステファン氏も感じ取り認めているところで、「良い表情だ!」と言ってくれるそうなんです。
彼女自身も、わざと表情を作っているわけではないけれど、自然と大きな表情になっていることを自覚していて、「これなら伝わる!」と自信を持てるようになってるとのこと。
私も先日、現地、生で見ていて感じました。無理していないのに、つまり表情筋を働かせ過ぎずに、それでも表情の変化がはっきり大きく見えてきます。
これは、身体が変わってきたと言いましても、単に肉体的なことだけではなく、身体と内面のつながりをしっかり掴めてきたことと同時に、動作に転化する術(すべ)が身についてきたからこそです。
一般的に日本人は表情だけでなく、身振り手振りが小さく、内で感じていることを動作に載せることが苦手です。ですから、いざそれをやろうとしますと、どうしてもジェスチャーになってしまい、ジェスチャーに気持ちを載せようとして、けれど載らないが故に顔芸になってしまう。
(彼女は顔芸をしなかったので、あえてしてみたらとアドバイスしたわけです。)
日本人のその表現の不得手さを、逆に突き詰めることで突破させてしまったのが、歌舞伎ではないかと。どう思われますか?
(お能は、表現の不得手さそのまま、面で素顔の表情を隠し、動きを無くしていく方向に行くことで、精神性のような表現に突き進んだ感じがします。)
さて、表情豊かであることと顔芸の境界線は曖昧です。
身体そのものが、その表情を兼ね備えているかどうか?ではないかと思います。
同時に、ジェスチャーがジェスチャーに見えず自然に見えるかどうか?でもあるかと思います。
それは、ジェスチャーに気持ちが載っているかどうか?というよりも、体幹と手足が有線でつながっているかどうか?ということだと、私は思っています。無線でのつながりでは、どうしてもジェスチャーに見えてしまう。
表現、表情は大事ですけれど、表情豊かというのが身体全体の中でのことなのか? それとも顔芸的なことなのか?
この似て非なることに意識を向けてみてもいいかもしれません。