クラシックバレエにはたっぷりとマイムの要素がありますよね。いわゆる演技的なところですね。
単にステップを踏んだり、美しいポーズをとったりということではなく、
心理表現を重視したところ。
もちろんステップなどの踊り色の強いところでありましても、
演技の心は求められますでしょう。
観客の共感を呼び起こさなければなりませんから、
自分勝手な思い込みでの演技ではなく、万人に共通の感覚を持ってして、
身体で表現しなくてはいけないわけです。
上手に踊れればいい、というものではないんです。
あれだけアクロバティックに動きながら、信じられないほど大変なことですよね。
ところで、ちょっと知り合いから聞いた話ですけれど、
ローザンヌバレエコンクールで入賞した日本女性が、イギリスかどこかへバレエ留学することになったものの、
ほとんどのレッスンがマイムだったらしいんです。
(実際のところは分かりませんけれど、その女性の印象では、そういうことだったのでしょうね。)
で、その女性、
「私はバレエを習いに来たのであって、マイムを習いに来たわけではない。」
と、途中で帰国したとかしないとか。
その後のことは分かりませんけれど、気持ちはよく分かりますよね。
踊りを勉強したいのに、なぜマイムの勉強ばかりなんだ?と。
これは日本舞踊でも言われますけれど、
「踊ってはいけない。」
「綺麗な格好をしようとするな。」
実はこうした踊りといいますのは、随分前にこのコラム欄でお話しましたけれど、
「踊りという形でマイムをしている」
のだと思うんです。
バレエが踊りとして成立する、美しい形や動きの流れ・リズムは、まずはマイム云々以前にとっても大事ですけれど、
やはり最後はマイムが大事になるのだと思うんです。
つまり、単に踊るということではなく、演じる心がなくては、ということなんですね。
で、そこで重要になりますのが、
踊りの形を壊さない、演技の形。
これはセリフ劇の演技を稽古するよりも、やはり無言での演技ということで、マイムになるのでしょう。
マイムを身に付けることで、たとえ同じアラベスクでも表情が多彩になるのだと思うんです。
先の女性のようにバレエを習いに来たのに、マイムばかりということになるわけですね。
ところで、ポーリッシュマイムといいますのは、このバレエのマイムを独自に発展させたものでして、
美しい形を見せながらも、その形を消すくらいの内面を表すのです。
同じマイムでありましても、形を重視するものもあるようですけれど、
ポーリッシュマイムは組み立てられた形ではなく、
流動的な有機的な、形にならない形を大切にしているんです。
これは前回の『先生はどこに?』でもお話しましたけれど、これこそ教えられるものではありません。
ありませんが、
内面の実感
というものを導いていくことを、私は心掛けていまして、
その大きな役割を果たしていますのが『エモーショナル・ボディワーク』になるんです。
私たちの日常生活程度のそれほど大きくない表現でしたら、観客の目はごまかせるかもしれませんけれど、
大きな表現(逆に繊細な表現も)となりますと、この『エモーショナル・ボディワーク』で培った内面の実感は大きな支えになるんですよね。
バレエの人がマイムに気がすすまないのは分かりますけれど、
マイムの人には、ぜひマイムをしてほしいですね。