「理論的な理解と、感覚的なリアリティがうまく重ね合わせられた瞬間に美しいものが生まれる。
だから私は、その二つが近接するタイミングをいつも探している。」
パントマイムの作品をつくるとき、このことはとても重要だと思っています。
私がいつもマイムや身体表現のお話をする際は、
山中氏の言葉でいう「感覚的なリアリティ」の精度に関することなんですけど、
その感覚的なリアリティといいますのは、主に演者としてのものを取り上げていまして、
実はもうひとつ、作家、演出家としての感覚的なリアリティというものもあるんです。
その２つの感覚的なリアリティを持って、作品をつくっていくのですが、
そこでは「理論的な理解」がとても重要だと、私は思っているんですね。
このような作品づくりのお話は、ほとんどの方にとって、縁遠いお話だと思うものですから、
まずお話することはありませんが、舞台を観るときも、こんなことを一度でも聞いておくと、
何か違ってくるかもしれません。
で、作品づくりのお話の前に、少しだけ…
実は、動きも「理論的な理解と、感覚的なリアリティがうまく重ね合わせられた」ものに
美しさが宿ると思っています。
といいますか、
感覚的なリアリティって、実は理論的な理解をベースにした動きでないと、
真のリアリティは感じられない。
そう思うんです。
たいてい日常的に身体を部分的にしか使わない、つまり感覚に頼った横着なことをしているので、
その横着通りのものがリアリティだと思ってしまうのですが、
それはリアルであって、リアリティではありません。
ですから、理論的な理解によって、真のリアリティを感じられるようになることが、
まず最初に取り組むべき課題なんです。
でも、気をつけて下さいね。
理論的な理解だけでは、動きの美しさは生まれませんよ！
それでは、ここからは作品づくりのお話を。
私は作品をつくるとき、感覚に訴えるものをと思っています。
けれど、それは
感覚的につくるということとイコールではないんです。
むしろ、感覚的に作ってしまうと、頭で受け取らざるを得ないような作品になると思うんですね。
まぁ、観ていて、何だかよく分からなくて、何を言おうとしているんだろう？
と考え込まざるを得ない、そんな感じです。
経験ありません？
ですから、
ひとが感覚的になれるようにと、
作品を構成していく必要があるわけです。
少し前にお話しましたが、ひとは物語を生きていますから、
作品の展開に作家側の思い込みによる飛躍がありますと、観客はついていけなくなります。
かといって、何でも順序立っていれば良いわけでもありません。論文じゃありませんものね（笑）
そこに、理論的な理解と感覚的なリアリティを重ね合わせる必要が出てくるんです。
もちろん、その感覚的なリアリティが作家、脚本家としてのものだけでなく、
演者としてのものがどの程度か？という、簡単に言えば演者の技量を加味していく必要もあります。
生徒さんに限りませんけど、作品づくりを見ていますと、
感覚的なリアリティばかりでつくられた作品は、気持ちは分かるけれど、入り込めません。
逆に、理論的な理解だけでつくられたものは、面白くありません。
もし、演者自身の感覚的なリアリティが低い上に、作品のつくりが感覚的な場合は、
妄想系といっていいんではないかと思います。
一部の人には熱狂的な支持を仰ぐかもしれませんけど・・・
さて、理論的な理解と２つの感覚的なリアリティ、これらをうまく重ね合わせるには、
あまり躍起になってもいけません。
どこか「待つ」という感覚が必要になります。
「降りてくるのを待つ」
という感じです。
重ね合わせが上手くいっていないときは、
一旦、作品が完成したかのようにみえても、どこかに違和感を覚えるものです。
その違和感を大事にして、もう一度見直していくんですね。
「理論的な理解と、感覚的なリアリティがうまく重ね合わせられた瞬間に美しいものが生まれる。」
・・・山中俊治氏の思いと違った意味で捉えているかもしれませんけど、
その美しさを持てた時点で、作品は完成を迎えられる。
そういう意味で、作品の完成は、自分の手で行なうのではなく、
何かに委ねているという感じでもありますね。
せっかくなら、作品は美しくあってほしい。そう思います。
