舞台で演じたり、踊ったりという際に、重要なこととして
「瞬間瞬間を生きる」
ということがあります。
「非連続の連続」という言い方もあるようですね。
これ、舞台にかかわりの無い人でも、
「今を生きる」
という言葉と通じていますから、興味のそそられる言葉だと思うんです。
さて、演じる、踊る人にとって、この言葉は危険な言葉だと私は思っています。
と言いますのは、
これが意志の力ではないことを理解していませんと、
「瞬間瞬間を生きようとしている」
ということになってしまうからなんです。
これと似た状態として、集中というものがあると思うんですけど、
「集中しようとしている」ことと「集中している」とでは、全く違いますでしょ？
「〜しようとしている」という状態は、すなわち「〜できていない」
ですものね。
あるいは、幸せ。
「幸せになろうとしている」ということは、「幸せではない」状態が前提ですよね？
いつ「幸せである」状態になれるのでしょう？
よく言われますのが、
「幸せであることに気づけばいい」という言葉。
キーワードは
「気づく」
だと思うんです。
「〜である状態に気づく」
ですから、
瞬間瞬間を生きようとするのではなく、
瞬間瞬間を生きている状態に気づけばいい。
もちろん、気づけばいいって言われても、そんな簡単にできるなら苦労しないですよね。
そもそも、瞬間瞬間を生きているってどういうこと？かもしれませんし、
どうしたら、気づけるの？ですよね。
それにですね、１回気づけばいいということではないんです。
瞬間瞬間、ずっと気づき続ける必要があるんですね。
気づき続けるといいましても、実際には断続的です。
気づくって、時間的長さはありませんでしょ？
ですから、気づき続けるということは、
まず最初の気づきがあり、次の気づきがあり、そしてまた次の気づきがあり・・・
ってことになりますよね。
ということは、例えば、1分間の演技・踊りで何回の気づきがあり得るのか？ですけど、
1秒に1回の６０回？それともその倍の１２０回？
少な過ぎます。
理想は、絶え間なく気づきが起こり続けることですから、数えきれないほどの数です。
つまり、ものすごく高速になりますから、断続的ではなく非常に滑らかに気づき続けている状態になるんです。
これは、言い換えますと、思考が存在しない状態です。
気づくというのは、思考ではありませんでしょ？
思考というのは、能動的ですけれど、気づくというのは受動的。
舞台上で、出来るだけ思考という能動的なことをせず、
受動的に瞬間瞬間を生きている状態に気づき続けることが
「瞬間瞬間を生きる」ことになるんです。
で、やはり問題になるのが、
「生きている」って何？
ここを、具体的にしておきませんと、ぼんやり抽象的なことになってしまい、
それこそ精神論、妄想の世界、思い込み、自己満足になってしまいます。
生きているといいますのは、変化が起き続けているということです。
肉体的にも、内面的にも。
ですから、舞台上で生きている状態に気づくとは、
表現しているものに沿って、肉体・内面がともにどんな変化をし続けているのかに気づくということになるんです。
ただ、ひと言で肉体といいいましても、手から足まで、お腹側も背中側も内側も、
ものすごく多くの箇所が存在しますでしょ？
そのものすごく多くの箇所の変化に、どれだけ気づけるか？
それは、表現という場から見ますと、どれだけ多くの箇所に変化を起こせるか？でもあるんです。
ただの肉体トレーニングになってしまいます。
私が日頃、筋トレやストレッチという考え方でレッスンしてないというのは、こういうことなんですよ。
「瞬間瞬間を生きる」ということは、すなわち、
肉体的にも、内面的にも、その絶え間ない変化に気づき続けるということであり、それは受動的。
決して、意志の力ではない。
表現という能動的なことをしながら、いかに受動的でいられるか？
どれだけ深いところに気づくことができるか？
起きていることが全てです。
「瞬間瞬間を生きる」のではなく、「瞬間瞬間を生きようとする」になってしまいますと、
起きていないことを、まるで起きているかのような錯覚の中で、舞台に立ってしまうことになります。
起きていることに気づく。
４月５日 『表現者のための呼吸 心と身体のワークショップ』
４月１６日 『声（音）を体に響かせる〜身体感覚を磨く 第４回』
Body,Mind&Spirit 本当の自分の身体は天才だ！
