上手くいっているときは、手応えがない。
これは、よく言われることですね。
けれど、本当でしょうか？
というのが、今回のお話。
まず、その手応えがないということですけれど…
ペアワークで、相手を押すとき、
押そうとしていないで、ただ腕を伸ばすだけのほうが、
かえってスッと押せてしまったり、
逆に、押されるのを耐えるとき、
頑張って耐えるのではなく、スッと立っているだけのほうが
強く立ててしまう。
こういったことでなくても、
走ったり、泳いだり、演奏したり…
あるいは仕事でもなんでも、
上手くいっているときは、手応えがない。
同じことがいえると思います。
先日も声のワークで、初参加の方がとても素晴らしい響きで
発声できるようになっていったのですけど、
ご本人曰く
「身体を忘れられると、いい感じになります。」
上手くいっているときは、流れに乗っていたり、
重力を無理なく使えていたり、自然な呼吸をしていたり…
ですから、何か特別なことをしている感覚が生じないんですね。
けれど、それは意識にのぼってくる感覚がないだけ。
本当に手応えのないようにと思って体を動かせば、
当然、何も出来ません。
いわゆる、「脱力したら何もできない」ということですね。
手応えがないのは、あくまで結果です。
それも、単に意識にのぼる手応えがないだけですね。
上手く何かができているときは、必ず何かをしていてるはずです。
そのことに対して、無自覚であったり、
そのことが、直接役立っているように感じられないだけなんです。
例えば、先ほどの声。
いくら、身体のことを忘れているといいと言いましても、
自分の耳に聞こえてくる自分の声を、よく聞いているはずです。
あるいは、自分の声が届く先（広さ）をイメージしているかもしれません。
そういったことで、身体は反応していつもとは違う状態に変化しています。
また、大抵の場合、何かをやろうとしますと、
気持ちが先走り…声の場合でいいますと、
口から声を出そうとしてしまい、
身体がついてこれなくなってしまうんですね。
つまり、上手くいっているときに手応えがないのは、
気持ちが先走っていないからこその感覚なんです。
それだけ、普段、気持ちが先走っていて、
それに気がついていないということですね。
よく、「落ちついて」っていいますけれど、
これも、落ちつくことが大事というよりも、
気持ちを先走りさせず、
身体をついて来させることが大事なんです。
で、この身体がついてくるというのは、
全身を過不足なく使うということです。
エネルギーの通りがよい状態ですね。
こうして、全身が使えますと、
頭では身体に対する情報処理が追いつかなくなります。
意識的作業と自動的作業とでは、それを担う脳の部位が違いますし、
必ずしも脳を経由しない反射動作もあります。
一般的には多くの人が、何かをしているときの身体の状態に無自覚に過ごしています。
運動や演奏時などで自覚していたとしましても、
ごく僅かなものです。
この認知力を上げない限りは、
「上手くいっているときは手応えがない」
という結果を待つだけの身になってしまいます。
つまり、上手くいくかどうかは、自分では何もできない。
ただ、無心になるといったような、それこそ単なる精神論に陥ってしまいます。
逆にいいますと、
この認知力を上げることで、上手くいっているときでも、
エネルギーの通り具合など、
手応えを感じられるようになります。
そこから、何をすれば上手くいくのかが分かりますから、
上手くいくかどうか、自分でコントロールできるようになるのです。
認知力の向上が内在されていない練習・運動は、
ただの身体の機械化です。
練習・運動していて、脳疲労しないものでは、内在されていないと思って下さい。
認知力を上げて、エネルギーの通りをよくする。
これが、「上手くいっているときは手応えがない」の手応えを感じ取って、
いつでも上手くいかせる方法です。
